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最終更新日:2011年6月6日

昨年度は、わが国にとっても、当院にとっても、受難の年でした。
わが国は、年度末に史上最大級の自然災害に襲われ、東日本太平洋岸を中心に甚大なダメージを被りました。被災者の方々には心からお見舞い申し上げます。当院としても、被災病院に薬剤を緊急送付したほか、静岡県医療救護班の一員として宮古市に職員を交代で派遣するなど、医療支援活動の一翼を担いました。短期間ながら、私も救護班に加わりました。身体科チームが引き揚げた後も、精神科チームは派遣を継続する予定です。
今回の大震災とその事後対応は、同じくプレート型巨大地震のリスクに直面する静岡県にとって、多くの教訓を提供してくれます。今後も、現地のダメージコントロールに学びながら、復興に向けて、可能な限りのお手伝いをさせて頂く所存です。
一方、当院内では、昨年夏、幹部職員によるパワーハラスメントを機に職員が自死するという痛恨の人為災害が生じてしまいました。この事件は、傷ましい犠牲を阻止できなかった当院の組織的・体質的問題を浮き彫りにしました。そして、事件への対応過程で、職員間の絆もまた傷つきました。
こうした犠牲の最終責任は私にあります。職を辞すという責任のとり方もありましたが、改革途上にある病院をすぐに立ち去るのは無責任でもあり、葛藤しました。そして、同種の事件の再発を防ぐために、当院の人事管理体制を見直し、体質改善を図ることで、責任をとらせて頂くこととしました。
さて、私が赴任して5年がたちます。この間、当院は、救急・急性期医療と司法精神医療、それに在宅医療を軸に機能強化をめざしてきました。この5年間、院内で改築・改装の槌音が絶える期間は、ほとんどありませんでした。私の赴任当時、6つ稼働していた病棟は、2009年4月の独立行政法人化を機に、児童病棟が県立こども病院に移転して4病棟に集約されました。図1に病棟の再編経過を示します。

昨年度は、医療観察法病床が2床から12床に増床され、北1病棟に併設されました。これに伴って、北1病棟は国庫補助のもとで全面改装され、旧来型の保護室は明るい個室に置き換えられました。また、児童病棟であった北4病棟を司法部門のプログラム実施ゾーンに改装し、1階と4階を外付けエレベータで直結するという大胆なリフォームを行いましたが、その工事の完了が遅れたため、医療観察法指定病床としての認可が予定より3か月近く遅れて、年度末になってしまいました。
今年度の当院の病棟構成は、2階に精神科救急入院料病棟(南2病棟)と精神科急性期治療病棟(北2病棟)という急性型包括病棟が併存し、1階に司法病棟(北1病棟)と回復期病棟(南1病棟)が並ぶ形でスタートしました。しかし、北1病棟の改装に伴って、病床数は定床の180床を8床下回っています。今年中に、北1病棟以外の3病棟に計8室の個室を増設して、定床の回復を図る予定です。なお、北1病棟がオープンした今年1月から、病院敷地内が禁煙区域となりましたが、これまでのところトラブルはありません。
このようなハードウェアの変化に対応して、スタッフ密度や治療プログラムも拡充されてきました。2008年6月に麻酔医を招聘して開始された修正型電気けいれん療法m-ECTは、昨年度、29ケースに実施され、治療効果をあげました。他院からの依頼も4ケースありました。昨年5月、司法部門の拡張をにらんで、クロザピン療法の登録施設となりました。昨年度はまた、心理教育や認知行動療法、急性期ケアマネジメントなど、心理社会的アプローチの強化が図られています。頻回入院ケースを対象に、ACT(包括的地域生活支援プログラム)も試行されています。
近年の診療統計から、病院の活動性を表す指標をいくつかピックアップします。
図2は、新患数(棒グラフ)と外来患者延べ数(折れ線グラフ)の推移を示したものです。2008年に児童外来が県立こども病院に移転したことと、新患を救急ケースや重症ケースにトリアージしているため、新患数は減少しています。外来患者延べ数の減少は、2名のベテラン医師の開業や逆紹介の増加によるものです。

重症ケースや救急ケースへのトリアージは、時間外診療にも現れています(図3)。2007年度をピークに時間外診療件数は減少していますが、主としてリピーターを減らす努力をしているためで、要入院ケースは増加傾向にあります。

図4は、1日平均在院患者と年間入院件数の推移を示したものです。ご覧のように、2000年以降、在院患者数は一貫して減少し、入院件数が増加傾向にあります。2008度以降の入院件数の減少は、開放病棟の閉鎖、児童病棟の移転、および司法病棟の開設に伴う一時的なベッド数の減少などによるものです。

病棟のダウンサイズと入退院の増加により、平均在院日数は短縮し続けてきました(図5)。しかし、2009年度の100.1日(開設以来最短)から、昨年度は108.5日と延びてしまいました。主たる要因は、やはり、司法病棟の増床による稼働病床の減少でしょう。今年度は、個室を増床して、病床回転率のアップを図ります。

平均在院日数の短縮は、病床回転の増加とともに、長期在院者の減少にもよっています。図6に示したように、5年以上の長期在院者は年々減少しています。しかし、近年、在院3ヶ月から1年、および1年から5年という患者群(いわゆるnew long stay)の比率が増加していることが気になるところです。実際、急性期治療病棟である北2病棟の保護室と個室(計24床)には、重症患者が堆積して、病床回転を圧迫しつつあります。他院から慢性重症ケース(chronic active)の転院を受け入れるという県立病院としての当院の使命によるところが大ですが、退院後3ヶ月以内の再入院ケースも少なからず見受けられます。

精神科三次救急(措置、緊急措置、応急入院)の件数は、患者の重症度を示す指標のひとつです。これに医療観察法鑑定入院を加えた特定ケース群の受け入れも、県立病院の使命の一つですが、図7に示したように、2007年以降、増加しています。中でも、鑑定入院は、全県の約8割を受けています。

最後に、経営指標のひとつである医療費単価を示します(図8)。2008年度の精神科救急入院料の認可以降、1日1床当たりの入院医療費は増加傾向にあり、医療観察法病床が本格稼働する今年度は、2万円を超えるものと期待されます。ただ、昨年度の診療報酬改訂は、当院にとっては期待外れでした。急性型包括病棟の医療費単価がわずか200円しか増額されなかったことや、13対1以上の看護配置をしている北1病棟が平均在院日数80日以内をクリアできないことなどのために、全体で0.5%ほどの増収しか実現できませんでした。

なお、2010年度の収支決算は未確定ですが、司法病棟増床工事の遅れや一時的減床などのため、医業収益が年度目標には届かなかったものの、経常収支の黒字は達成できる見込みです。
今年度、当院は以下のような重点課題を掲げています。
基本方針7(公益医療)に則って、東日本大震災の被災地をメンタル面で支援する。
(1)北2病棟のスーパー救急病棟化
PSW2名を増員し、北2病棟(現在は精神科急性期治療病棟)を南2病棟と対等の精神科救急入院料病棟(いわゆる「スーパー救急病棟」)にする。
(2)司法精神医療部門の強化
12床に増床された北1病棟の運営を軌道に乗せる。
(3)南1病棟の機能強化
看護職員の増員(特に男性スタッフ)によって、2階の急性型包括病棟群を支援し、ACTと連携して退院促進活動を強化する。
外来スタッフと在宅医療支援スタッフが病棟に出向き、退院前訪問や急性期ケアマネジメントを強化して、退院後3か月以内の再入院を減らす。
頻回入院者を中心にACT(包括的地域ケアプログラム)を拡充する。
認知行動療法、SST、心理教育、家族教室を包含する心理社会的治療プロジェクトチームを立ち上げ、家族会活動を積極支援するとともに、心理教育・家族教室ネットワーク第15回全国研究集会(2012年3月8日~9日、於アクトシティ浜松)を開催する。
今年中に、私が赴任当時に思い描いていた当院の形が、病棟部門に限れば、ほぼできあがります。多くの職員のアイディアと努力の結晶です。しかし、在宅ケアプログラムの強化をはじめ、やりたいこと、やるべきことは、まだたくさんあります。今は見果てぬ夢(impossible dream)でも、こころざしを保ち続ければ、いつかは実現するはずですし、当院にはその潜在的パワーがあると思います。挫折に学び、常に自己変革しながら、夢の実現に向けて粘り強く歩み続ける病院にしたいと思います。