リサーチ サポートセンター

リサーチサポートセンター長挨拶

伊藤裕先生

令和6年4月1日よりセンター長を拝命しております、伊藤 裕です。私は、2006年まで、京都大学医学部付属病院、現在の糖尿病・内分泌・栄養内科で助教授として勤務し、その後、慶應義塾大学病院、腎臓内分泌代謝内科教授を務めておりました。2023年からは、麻布台ヒルズに新しく移転拡張した慶應義塾大学予防医療センター特任教授として、予防医療を中心に活動しております。専門は、ホルモン、生活習慣病(肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病など)です。
静岡県立総合病院では、これまで勤務経験がなく、この一年、病院の臨床活動、臨床研究の内容をみさせていただき、また病院スタッフの方々とお付き合いさせていただくなかで、ようやく自分のやるべき方向が観えてきたところです。今後とも親しくお付き合いいただきたく存じます。
リサーチサポートセンターの紹介とその役割について、次の質問にお答えする形で、わたしの考えをお示したいと思います。

リサーチサポートセンターでは何がされているのですか?

静岡県立総合病院をはじめ、静岡県立病院機構に属するこころの医療センター、こども病院に通院される患者さん、さらには、静岡県民全員の心身の健康とウェルビーイング(福祉、幸せ)向上のための医療現場での研究(リサーチ)を支援推進(サポート)する部門です。
病院では、患者さんが、だれでもどこでもスタンダートな医療を受けられるように、学会などが定めたガイドライン(標準の診療手順書)に従って、診断治療がなされています。こうした医療が誠実になされることが担保されることで、患者さんは、安心して自分のからだの情報を病院に提供して、薬の投与を受けたり手術を受けたりすることを受け入れています。しかし、ガイドラインは、仏典や聖書のように、絶対的な真理ではありません。完全には我々のからだの仕組み、病気の成り立ちがわかっているわけではないからです。日々、より正しく、患者さんのためになるものに、更新されなければいけません。その更新のために、医学についてまだ分からないことを分かろうとする努力が“研究”です。
具体的には、病院で得られる患者さんの情報、すなわち、身体の計測値、撮影画像、採取した血液や尿、遺伝子などの臨床検体データを解析します。また県民の皆様から得られた病気の傾向などの分析を行います。そうして、病気の成り立ちの原因を明らかにして、健康でいられるための方策を探ることが研究です。

なぜ、静岡県立総合病院に、リサーチサポートセンターが必要なのですか?

静岡県立総合病院は、県下で最も質の高い医療を安全に提供する使命があります。その実現のために、一番大切なことは、病院で働く医療者一人一人の質が高く、しかも、そうした人が、数多く病院に集う必要があります。一人一人の力が強く、さらに集まることで、足し算ではなく、掛け算的にそのパワーは強まります。
質の高い医療者とは何でしょうか。それは一言でいえば、“考える医療人”です。つまり、“日々のルーティンの医療行為の中で、常に、自ら、これがベストの医療なのかと問いかけ、自ら、その問題点を見つけ出し、自ら、その解決法を考えようとするひと”です。
医療の現場で、“考えたい”と思えることは、研究することで得られる喜びを体験することで初めて実現します。そして、“考える方法”は、研究するなかで初めて習得できます。
日々の医療での問題を見出し、その解決をめざして、医療者自身が面白いと思える研究がなされるように支援するのがリサーチサポートセンターです。こうした研究が数多く実施されることで、質の高い医療者が、静岡県立総合病院で働きたいと思えるようになり、数多く集ってきます。そして、その人たちの連携プレイによって、質の高い医療が実践されるようになります。
そうすれば、静岡県立総合病院に勤務する医療者の医療に対するモチベーションが高まり、どんどん、良い医療が提供されるようになります。そして、その恩恵は、通院する患者さんに還元され、どんどん、満足度が高まります。
こうした良い循環を起こすために、静岡県立総合病院に、リサーチサポートセンターが必要なのです。

リサーチサポートセンターでは、今後、他の施設と異なる、どのような独創的な活動がなされようとしているのですか?

質の高い、優秀な医療者が、他の施設ではなく、静岡県立総合病院で働きたいと思えるようになるために、わたしは次のような計画を考え、現在、志を共にする病院スタッフの方々とその実現に向けて努力しています。
それは、病院横断的な全科共通の患者データベース(静岡県立総合病院データベース:Shizuoka General Hospital-Data Base; SGH-DB)の構築です。
静岡県立総合病院通院中の患者(いずれは、静岡県立病院機構の他の病院についても実施したい)について、それぞれの科が重要と考える疾患を持つ患者を対象に、共通の項目(患者生活背景、病歴、臨床検体データ)を同じフォーマットで入力し、蓄積します。また継続加療通院中のデータも経時的に、その治療内容を含め、追加入力していきます。こうして蓄積されていく医療情報のバンクが、SGH-DBです。
このデータベース、SGH-DBは、病院職員であれば、だれでも、自分が臨床行為で見出した疑問(クリニカルクエスチョン)に答えるために、利用できる仕組みを作ることを目指しています。全国で、一病院単位でこのようなシステムを持っている病院はまだありません。
このシステムには以下のような利点があります。
1. 自分たちの病院に通院する患者についての正確で、加療経過も含めた質の高い医療情報が得られる。
2. その解析結果は、病院の実情に合ったものであり、病院の医療に直結する。また全国的に解析されたデータと比較することで、我々の病院の立ち位置を知ることができる。
3. 現在の超高齢社会においては、通院患者は、数多くの疾患を同時に持つ方が多い(マルチモビデイテイー)。全科協力のデータベースであれば、その患者の全体像を把握することができ、より深い解析ができる。
このようなリサーチサポートの仕組みは、優れた医療者の大きな魅力となり、多くの医療者が集まる静岡県立総合病院となることで、質の高い医療が実現すると思います。

静岡県立総合病院に通院されている患者のみなさま、そして病院で働くすべてのスタップのみなさま、リサーチポートセンターの役割と意義をご理解いただき、皆様方全員のウェルビーングの向上のため、ご支援、ご協力のほどお願い申し上げます。

2019年度 日本医師会医学研究奨励賞受賞について

静岡県立総合病院 寺尾免疫研究部長(理化学研究所生命医科学研究センター ゲノム解析応用研究チーム チームリーダー)が、日本医師会医学研究奨励賞を受賞しました。
静岡県では1987年度以来の受賞となりました。

寺尾免疫研究部長は、これまで遺伝統計学・遺伝疫学的アプローチで自己免疫性疾患の病態を明らかにしてきました。遺伝統計学というのは、生命の設計図であるゲノム情報の個人差と、病気などの形質*1情報の個人差の関わりを調べる学問になります。
今回、自己免疫性疾患*2の発症に、後天的な遺伝子変化が蓄積し血液細胞を増殖させる現象(クローナルヘマトポイエーシスと呼ばれる)が関係する可能性を提唱し受賞にいたりました。

研究内容
clonal hematopoiesisに注目した自己免疫性疾患の病態解明

*1 形質:分類・形態学では,分類の基準となる形態的な要素をいう。また遺伝学においては、表現型として現れてくる要素的な遺伝的性質を形質という。
*2 自己免疫疾患(autoimmune disease)とは、本来ならば体内に入ってきた異物を認識・排除するための役割を持つ免疫系が、何らかの原因により、自身の細胞やタンパク質を異物と認識して攻撃してしまうことで症状を起こす疾患の総称。バセドウ病、1型糖尿病など

日本医師会医学研究奨励賞について

日本医師会医学研究奨励賞(Medical Research Encouragement Prize of The Japan Medical Association)は、日本医師会会員で、医学上将来性に富む研究を行っているものに授与されます。本賞は、毎年1回、基礎医学・社会医学・臨床医学を通じ、15名に授与されます。

スタッフ

職名氏名
リサーチサポートセンターセンター長伊藤 裕
リサーチサポートセンター顧問島田 俊夫
臨床研究部部長田中 清
遺伝研究部部長臼井 健
腎臓研究部部長森 潔
免疫研究部部長寺尾知可史
社会健康医学研究部部長吉村 耕治
肺循環動態研究部部長猪飼 秋夫
図書室室長白井 敏博
きこえとことばのセンターセンター長髙木 明
研究支援室室長田中 清