鼠径ヘルニア・陰嚢水腫(日帰り手術)

腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術について

静岡県立こども病院 小児外科では全国に先がけて鼠径ヘルニアなどの日帰り手術を開始し、毎年200例以上の日帰り手術を行っています。鼠径ヘルニア、陰嚢水腫や停留精巣などの侵襲の少ない手術では、日帰り手術を行っています。日帰り手術とは、手術を受ける日の朝に来院し、手術終了後に1~2時間経過を観察し手術後状態の安定を確認した後に退院する方式です。このような場合には、術前の外来受診時に必要な検査をすべて終了させておく必要があります。

鼠径ヘルニア・陰嚢水腫
鼠径ヘルニアは一般に約15分~30分程の手術です。手術当日の朝に病院に来ていただきます。静岡県立こども病院小児外科では、腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術(LPEC)を標準手術として日帰りで行っています。手術時間は、従来法に比べ短く男女差はありますが20-25分です。手術終了後は、術後の回復を確認した後に3~4時間後に退院となります。1週間後に外来で再度診察して問題がなければ終了になります。抜糸の必要はなく傷は将来ほとんど目立たなくなります。これまでに1800例以上の手術を行っていますが,大きな合併症はありません。

鼡径ヘルニアとは?

鼡径ヘルニア、陰嚢水腫

鼡径ヘルニアは、赤ちゃん30人に1人の割合で存在するといわれており、子どもでは頻度の高い病気です。この病気は、腹膜から連続する袋が、腹腔外へ延びたままになっており、この袋の中に腸管や卵巣が入り込むようになった状態です。男児では精巣が下降することに関与しています、この袋は生後には閉鎖するのですが、それが開いたままであることが原因と考えられています。なかには袋の中にお水が溜まり、陰嚢水腫となることもあります。腸管が袋の中に入り込んで鼠径部や陰嚢が腫れていても、腹腔内に容易に戻る状態であれば心配する必要はありませんが、脱出した腸管が腹腔内に戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」という状態では注意が必要です。嵌頓の状態では、子どもは機嫌が悪くなり、ふくらんだ部分は硬く、触ると非常に痛がり、次第におなかが張ってきて嘔吐するようになります。この状態を放置すると腸管の血行障害を起こし、腸管がむくんできてますます戻りにくくなり、最終的には腐った腸管を切除する緊急手術が必要になることもありますので、早めに来院して下さい。

鼡径ヘルニア手術とは?

手術方法には従来から行われている

  1. 鼠径部を2~3cm切開し袋の根元を糸で結紮する手術(Pott’s法など)
  2. 最近行われるようになった腹腔鏡下根治術
の2つがあります。いずれの手術も腸管や卵巣が脱出していれば腹腔内にもどし、腹膜から連続する袋を根元でしばる高位結紮術です。嵌頓して腸管が腐っている場合にはかなり傷を大きくして、おなかの中の状態を調べる必要があります。男児の場合は精巣に向かう血管や精管が袋についており損傷しないように注意する必要があります。

従来法による手術

鼠径部を2~3cm切開し袋の根元を糸で結紮する手術です。男児では精管・血管を袋から剥がすため術後に陰嚢が腫れたり痛みが残ったりしました。合併症としては精管損傷・血管損傷・膀胱損傷・腸管損傷・神経損傷などの可能性が少なからずあります。また片側の手術の時は対側発生といって、反対側のヘルニアが出てくることが約6.5%の患者様で見られました。

そこで静岡県立こども病院 小児外科では,2008年より腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術(LPEC)を標準手術として日帰りで行っています.手術時間は,従来法に比べ短く男女差はありますが片側だけの手術で平均で21分です.両側の手術を行っても平均25分です.

腹腔鏡下鼡径ヘルニア手術

腹腔鏡手術はお腹の中に内視鏡(カメラ)を入れて観察しながら行う手術です。臍の中央から3mmの太さのカメラを挿入し,二酸化炭素でお腹を膨らませテレビモニターに映してヘルニア門を観察します。

腹腔鏡で見たヘルニア門

腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治療

その後、右側腹部に2mmの小さな切開を加え鉗子という細いマジックハンドのような器具をいれ、鼠径部からヘルニア用に作られた特殊な針を使用してヘルニア門の周囲に糸をかけ閉鎖するというものです。傷が非常に小さく臍の中を利用するので術後に傷はほとんどわからなくなります。手術中に症状のない方にもヘルニアの穴があることがしばしばあり(当院の経験では約41%)、穴が見つかればそちらも同時に手術を行います。
また、術野が腹腔鏡で拡大されるため、以前の手術に比べ精管・精巣動静脈を愛護的にあつかえるようになり、術後の陰嚢の腫れも全くみられません。

従来法による手術と腹腔鏡下鼡径ヘルニア手術の比較

腹腔鏡下鼡径ヘルニア根治術導入後に当院で5年間に行った手術の成績を、導入前の5年間に行った従来法の手術と比較しました。

ヘルニア成績

手術時間に関して
従来法に比べて腹腔鏡手術は手術時間が短くなっています.腹腔鏡手術は従来法と比べてよりシンプルな手術方法であり,患者様への負担もむしろ少ないと考えています.

合併症に関して
鼡径ヘルニア手術の合併症には,出血,感染,術後再発,術後対側発生,男児の場合精巣への影響(精巣萎縮,精巣挙上など)があります.
いずれの術式でも合併症の頻度は少ないですが,当院の経験では再発や精巣への影響などより大きな問題は,腹腔鏡手術の方が発生頻度がやや
少なくなっています(統計学的に差はありません).

腹腔鏡手術の術後におへその形が少し変わる患者様が時々います.

日帰り手術とは?

術前検査は外来で行います。初診時に採血,手術までの2週間以内に採血・検尿とレントゲンの検査及び麻酔科の診察があります。手術当日の朝入院して手術を行います。手術後は病室で1~2時間経過をみて退院となります。退院後は基本的に普段と同じように過ごして頂いて構いませんが,1週間後の術後診察まで入浴はシャワーのみにして下さい。

年間300件以上の実績

当院では色々な小児腹腔鏡手術を行なっています。(年間300件以上)

当院は、小児内視鏡手術において全国でも有数の手術件数、実績を残しています。主な内視鏡手術は、胆嚢摘出術、虫垂切除術(盲腸の手術)、脾臓摘出術、噴門形成術(胃食道逆流症の手術)、ヒルシュスプルング病根治術、食道閉鎖根治術、胆道拡張症根治術、腎臓摘出術(生体腎移植ドナー手術)などです。