私たちが冒頭で述べました低侵襲手術という基本理念に則り現在施行している具体的な手術方法を掲げます。
このページの目次
- 弁膜症手術
- 低侵襲心臓手術(MICS)
- ダヴィンチシステムによるロボット心臓手術
- 経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)
- 経皮的僧帽弁クリップ術(MitraClip)
- オフポンプ冠動脈バイパス術(OPCAB)
- 重症心不全に対する左室補助人工心臓(LVAD)手術
- 胸部大動脈手術
- 胸部大動脈瘤ステントグラフト治療 (TEVAR)
- 腹部大動脈瘤ステントグラフト治療 (EVAR)
僧帽弁に関して、最も多い疾患として僧帽弁閉鎖不全症が挙げられます。この疾患に対しては弁形成術(修復術)を第一選択としており、抗凝固療法が必要な人工弁置換術を回避しております。症例によっては、通常の胸骨正中切開を行わず、側胸部の皮膚切開が約6cmのみの低侵襲心臓手術(MICS)で施行しており、2020年からは県内初となるロボット(ダヴィンチ)による僧帽弁形成術を行い、さらなる低侵襲化を目指しております。
僧帽弁に対する外科的手術困難症例では2018年からは経皮的僧帽弁クリップ術(MitraClip)というカテーテル的に僧帽弁逆流を制御する方法も行っております。
当院の弁膜症手術数の年次推移
通常の正中切開
僧帽弁形成術後
大動脈弁置換術後
MICS-CABG術後
成人症例のASD閉鎖術後
小学生のASD閉鎖術後
ダヴィンチの特徴として、繊細な3Dカメラを搭載しており、心臓内で360°も回る関節を有する動きができることで、狭い空間で思い通りの運針ができることが挙げられます。8mmのポートを2-3か所開けることによりメインの創部を小さくし、術後の疼痛軽減にも寄与でき、早期の社会復帰が可能です。当院では、ダヴィンチシステム支援下で、僧帽弁形成術をメインに行っております。
当院でのロボット支援僧帽弁形成術(n=73)の詳細(2020年7月-2024年12月)
年齢 | 60±12歳 |
手術時間 | 305±52分 |
大動脈遮断時間 | 119±28分 |
術後mildを超える残存MR | 1例(1.4%) |
正中切開Conversion | 0% |
2nd Clamp | 4例(5.5%) |
出血再開胸 | 0% |
病院死亡 | 0% |
術後在院日数 | 7.2±6日 |
da Vinciシステム
当院のロボット心臓手術実施認定書
da Vinciコンソールの操作風景
ロボット支援下で行う僧帽弁形成術のカメラ画像
ロボット支援下僧帽弁形成術後の創部写真
従来の開胸による人工弁置換術ではリスクが高いと判断され、治療を断念されてこられた患者さんが少なくありませんでした。このような患者さんの治療を可能にしたのが本治療法であり、当院では術前評価から手術、術後管理までを心臓血管外科、循環器内科との合同チーム(ハートチーム)で行っています。
TAVIについてはこちらをご覧ください。
MitraClipは循環器内科が主体となって心臓血管外科とのハートチームで適応を決めて行っております。あくまでも外科的手術が困難な症例に限定しておりますが、適応になる可能性のある患者様がおられましたらいつでもご相談下さい。
冠動脈バイパス術は外科的な手技であるため、カテーテル治療よりも侵襲的でありますが、現在では、生命にかかわる手術リスクは1%以下と、極めて安全に行うことができ、長期の心筋梗塞予防や、バイパス血管開存が保つことができます。冠動脈バイパス術は心臓表面の血管に対する手術なので、人工心肺を使用せず、心臓を拍動させたまま吻合を行うオフポンプ冠動脈バイパス術(OPCAB)が可能です。当院では侵襲の大きい人工心肺を用いないOPCABを第一選択としており、当院での単独の冠動脈バイパス術の約9割はこの術式で行っております。
OPCABは心臓を拍動させたまま1-2mmの血管を吻合するので、極めて高い手術技能が要求されます。現在では、OPCABで冠動脈バイパスを行っている施設は多くなってきましたが、外科医の習熟度には優劣があり、OPCABの治療成績は執刀する外科医のレベルで大きく異なってきます。当院では、OPCABに精通している部長の恒吉が担当しており、バイパスの開存率は良好です。グラフト開存率を下の表に示しております。バイパスに用いる血管も長期的に開存率が良いとされている動脈グラフト(内胸動脈、橈骨動脈)を可能な限り多用し、静脈を用いる場合も、No-touch SVGという新しい手術方法で採取したグラフトを使用し長期的な開存が期待できるよう努めております。
CABGのグラフト開存率の年次推移
2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
CABG総数 | 42 | 64 | 64 | 69 | 73 | 77 | 77 | 75 |
左内胸動脈(LITA) | 100% 38(0) | 100% 49(0) | 100% 56(0) | 100% 63(0) | 100% 61(0) | 100% 65(0) | 98.5% 66(1) | 100% 65(0) |
右内胸動脈(RITA) | 100% 11(0) | 100% 17(0) | 100% 15(0) | 100% 10(0) | 100% 16(0) | 100% 10(0) | 100% 10(0) | 100% 19(0) |
橈骨動脈(RA) | 100% 2(0) | 100% 7(0) | 100% 4(0) | 100% 9(0) | 100% 3(0) | 100% 5(0) | 100% 2(0) | 100% 3(0) |
大伏在静脈(SVG) | 100% 57(0) | 94.6% 74(4) | 96.8% 62(2) | 98.6% 70(1) | 100% 70(0) | 100% 64(0) | 100% 68(0) | 98.1% 54(1) |
総グラフト開存率 | 100% 108(0) | 97.3% 147(4) | 98.5% 137(2) | 99.3% 152(1) | 100% 150(0) | 100% 144(0) | 99.3% 146(1) | 99.3% 141(1) |
当院で管理可能な植込型補助人工心臓
体外設置型の左室補助人工心臓
当院の胸部大動脈手術数の年次推移
巨大な破裂性遠位弓部大動脈瘤(術前)
頸部分枝の再建をしてステントグラフトを上行大動脈から下行大動脈まで挿入した(ハイブリッド手術後)
ステントグラフト治療は、鼠径部の小さな傷で治療できますので、従来法に比べ体への負担が少ないのが魅力的で、体力に不安のある高齢者の方や合併症のある方も比較的安全に行えます。当院は、TEVAR同様、腹部ステントグラフトにおいても実施施設として県内トップクラスのステント手術数を維持しております。
手術前(7cm腹部大動脈瘤)
手術後(ステントグラフト治療)
当院の腹部末梢血管手術数の年次推移